タイで観光の目玉にもなっている「象乗り体験」。
しかし、この興行に従事させられている象たちは、虐待同然に調教されていることが多いとも言われています。
ある日、象乗り体験のため何十年間にもわたって酷使されてきたサオノイという象が、BLES(象保護団体)によって救出され、同団体の施設に引き取られました。
サオノイは60歳。
アジア象の平均寿命は80歳と言われていますが、長年にわたって拷問まがいの扱いを受けていた彼女は、すでに息も絶え絶えな状態でした。
BLESに引き取られると、同じ境遇で保護されていた象たちとすぐに仲良くなったサオノイ。
その中でも、特にブーンサンという名の象とは強いつながりを感じていたようでした。
ブーンサンもまた、長年ひどい調教を受けていた影響で片目がつぶれ、背骨も歪んでしまっていました。
施設の森の中で、2頭はいつも寄り添うように過ごしていたそうです。
そんな同じ境遇の仲間とともに手厚い治療を受けたサオノイは、体調も良くなったように見えました。
けれども彼女は、やはりまた倒れてしまいます。
そして、もはや歩くこともままならない状態に…。
ブーンサンは、いつもぐったりと横たわっているサオノイのそばで、心配そうに友を見守っていたそう。
鼻で優しく体を撫でてやったり、サオノイがもう一度立ち上がれるよう、彼女を起こしてやろうとするような仕草を見せることもありました。
できるだけ苦しみを長引かせないよう、自分たちの手で眠らせてやったほうが良いのではないか。
スタッフがそうしたことを話し合っている際にも、その意味を理解しているかのように、サオノイをずっと撫で続けてあげていたブーンサン。
そんな姿を見たスタッフには、安楽死の選択をとることなどできませんでした。
彼らは再び、祈るように、サオノイの治療や世話にあたります。
そして、奇跡が…。
なんとサオノイは、補助装置をつけながらも、自分の4本の足で立てるように! それだけではなく、鼻を高く上げ、回復をアピールするようなしぐさまで見せたのです。
スタッフは大喜びし、「このまま順調に良くなれば、またブーンサンや仲間と過ごせるよ」と、サオノイを励まし続けました!
しかし…
それは、自分を見守ってくれた仲間たちに対する、最期の挨拶だったのかもしれません。
2016年7月6日。
サオノイは、天国に召されました。
子象のときに親から離され、虐待まがいに調教され、酷使されてきたサオノイ。
本当に短い期間だけでしたが、BLESスタッフに愛情をもって扱われ、ブーンサンや仲間の象たちに囲まれながら過ごしたことは、彼女にとって大きな救いとなったことでしょう。
サオノイの冥福を祈るとともに…
彼女のような苦しみを強いられる象がいなくなることを、心から願います。